九州電力やらせメール問題検証サイト

メールマガジン

2011/08/01

【九州電力「やらせメール問題」、第三者委員会設置後の新たな展開〜
佐賀県知事、「原発容認意見期待発言」公表の経緯〜】

 事実調査、原因究明、再発防止策策定のための第三者委員会委員長を私が務めることとなった九州電力「やらせメール問題」、7月27日の第1回会合以降、事態は激しく動いている。既に記者会見等で公表された事実を整理し、私なりのコンプライアンスの視点から解説を加えてみることとしたい。

 7月24日、私は福岡市に赴き、その5日前に九州電力側から委員長就任の依頼を受けた第三者委員会について眞部社長と会談した。

 私からは、同社が7月14日の経済産業省への報告の中で明らかにしていた「社外有識者を含めたアドバイザリーボード」を「社外有識者のみで構成される第三者委員会」に改めること、同報告の中では明記されていなかった社外の弁護士チームによる事実調査を行うことの2点を提案した。

 眞部社長は、この二つの提案を受け入れ、それらを前提に、委員会立上げと活動のスケジュールを話し合った。

 それらの点について大まかな話が終わった頃、眞部社長が「実は、今回の問題に関しては、まだ明らかにしていない重要な事実があるのです」と言って話し始めたのが、今回の説明番組に対する投稿依頼の発端とされていた副社長、常務、佐賀支店長の佐賀での昼食時の会談の前に、3人が古川佐賀県知事と会談した事実であった。

 そもそも副社長、常務の佐賀来訪の目的は退任の挨拶回りであり、佐賀県のトップである知事を訪問するのが、ある意味では当然であった。朝一番に3人が知事公舎に挨拶に赴いた際、知事から、その5日後に予定されていた国主催の説明番組について話があり、その時の知事の発言内容についてメモが作成された。そのメモが原子力発電本部に送付され、説明番組への投稿を求めるメールに添付され、同本部内の多数の社員に送付された。同メモの記載は、古川知事が九電側に番組への投稿を求めたようにも読める内容になっており、同メモが多くの社員に送付されたことが、今回の番組への投稿につながった可能性がある。しかし、九電会長が知事に確認したところでは、会談時の知事の発言は、九電側に投稿を求めるものではなく、「経済界の原発再稼働容認の意見を説明会の機会を使って出してもらうことも必要」という趣旨だったとのことであり、メモを作成した佐賀支店長もその記載が不正確であったことを認め、知事の発言は九電側に番組への投稿を求めるものではなかったと説明しているとのことであった。

 眞部社長は、それまでの九電側の対応について説明した上、私に、その後の対応を要請した。

 「この21日の知事との会談の事実は、今回の説明番組への当社の対応に関する重要な事実ですが、会談での古川知事の発言がメモの記載のような発言をしたように理解されると、知事が重大な政治責任を問われることになりかねないし、我々の立場からそれを言うことは、自分達がやったことが知事のせいであるように自己弁護しているようにも受け取られかねないので、その事実を公表することには慎重にならざるを得ませんでした。ですから7月14日の経産省への報告の中でも触れていません。しかし、そのことは社内では多くの人間が知っており、メモのファイルもメールに添付されて多くの人間にわたっています。しかも、知事からの要請が今回の問題引き金となったとすれば、当社側にとっては有利な事実なので、今回の問題で社会から厳しい批判を受け日常業務の中でも大変な思いをしている当社の社員からすれば、不満に思っても無理はない。いつマスコミに報道されても不思議ではない。私は、この事実を隠そうという気持ちは全くないし、松尾会長も、すべて事実を明らかにして公にするように指示しています。先生の方で早急に事実をお調べ頂き、第三者委員会として適切な対応をとって頂きたい。」

 私は、今回の説明番組への投稿問題に関して、佐賀県知事の発言という重要な要因があったことを知って驚いた。至急、知事の発言内容に関して調査し、事実を確認した上で結果を公表し、この問題について社会に誤った認識を与えているのであれば是正する必要があると考えた。

 そこで、福岡市で第三者委員会第1回会合が開かれた7月27日の夜に佐賀市に赴き、古川知事と会って、6月21日の九電副社長以下との会談の際の発言内容を確認した。

 知事の話によると、「県民説明番組があるので、多くの方に見てほしい。少人数しかスタジオに入らないので、議論を深めるためには、賛成・反対双方の立場から幅広い意見を寄せてもらうことが必要だと思う。電力安定供給の面からも、再稼働を要望する声が経済界に多くあるようだが、なかなか表に出て来ない。そういう意見もあるのなら、説明番組の機会を使って経済界からも意見を出してほしい。意見を、ネットで受け付けている」と発言したとのことであった。

 その後の対応について、古川知事は、「私の発言が九電のメール投稿依頼などの行動につながったとは思っていないが、九電の3人の方々とお会いして説明番組について発言したことは事実であり、九電側もこの点を調査して明らかにされるのであれば、私としても記憶していることに基づいて県民に説明しなければいけないと考えている。これから準備した上、可能な限り早く正式の会見を開いて説明したい。また、もし、その点について個別のメディアから取材を受けた時には、その個別取材に応じるのではなく、緊急に会見を開いて説明することも考えたい」と述べた。

 私の方も、知事が21日の会談時の発言について会見を開いて説明されるのであれば、それを受けて会見を開き、その時点までに第三者委員会の側で調査して確認した内容を明らかにすることを約束した。

 翌28日、私は、午前の便で東京に戻る予定を変更し、急遽、21日の知事との会談の同席者で会談メモの作成者でもある九電佐賀支店長からヒアリングをすることにした。古川知事の発言について同知事の記憶とは異なる趣旨の会談メモの記載があることについて、メモ作成者の説明を至急確認する必要があると考えたからである。第三者委員会としての調査を実施する弁護士チームにとっても極めて重要な調査事項であることから、調査を総括する赤松幸夫弁護士にもヒアリングに同席してもらう必要があると考え、急遽東京から福岡へ出張するよう要請した。

 同日午後に行った私と赤松弁護士のヒアリングに対して、佐賀支店長は、古川知事の説明番組に関する発言内容に関しては概ね知事と同趣旨の供述を行い、会談メモについては、「退任挨拶という会談の性格上、会談時は手帳に、ごく一部をメモしただけだった。副社長の指示を受け、支店に帰った後に、記憶に基づき、メモを作成したもので、必ずしも正確ではない部分もある。」と述べた。この説明は、その場で提示を求め確認した同支店長の手帳の記載とも矛盾しなかった。その結果、私と赤松弁護士は、最終的には今後、詳細なヒアリングを行った上で判断する必要があるものの、会談時の知事の発言についての佐賀支店長の現時点での供述は基本的に信用できるものと判断した。

 ヒアリングを終えて、福岡空港から羽田に向かい、飛行機を降りたところで、九州電力の担当者からの電話で、週刊誌AERAから質問の電話があり、6月21日に九電副社長ら3名が知事と会った事実の有無等について、翌日の正午までに回答するよう求めているとの連絡を受けた。

 翌朝、このAERAからの質問への対応について、電話で真部社長と協議した。私からは、第三者委員会を設置して調査を開始した以上、その後のマスコミからの質問についてはすべて同委員会委員長に委ねていることを理由に会社としての回答はすべて拒絶することも可能と述べたが、眞部社長は、「重要な事実であるのにこれまで会社として明らかにしていなかった経緯もあるので副社長らが知事と会った事実だけは会社として認める回答をしたい」との意向だったので、会社としてその事実のみ認め、それ以外の点については第三者委員会で調査中を理由に回答しないことになった。

 そして、同日夜遅く九電担当者から連絡があり、AERAから同趣旨の古川知事宛ての質問が佐賀県にも届いたことを受けて、古川知事が、翌日の土曜日の午後3時から記者会見を行って、6月21日の会談の事実について説明する方針を固めたことを知らされた。私は、古川知事会見を受けての第三者委員会委員長として記者会見を、同日夜に福岡市内で行いたいとの意向を九電側に伝え、会見の設営を要請した。

 このような経緯を経て、7月30日午後3時から、佐賀県庁で古川知事の記者会見が行われ、6月21日午前に九電副社長と会談した事実、その際の発言内容についての説明が行われた。そして、それを受けて、同日午後7時から、私が、福岡市内のホテルで第三者委員会委員長としての記者会見を行い、それまでの調査結果と、九電側がその事実を公表していなかった理由や調査の経緯等について説明した。

 以上が、先週土曜日末に、6月21日の古川佐賀県知事と九電副社長らとの会談の事実とその際の知事発言について、公表が行われた経緯である。

 そこで、このような経過に関して、私なりのコンプライアンスの視点から若干の解説・評価を行ってみることとしたい。

 まず、第一に、6月21日午前の会談での知事の発言内容について、実際とは趣旨の異なるメモが作成され、それがメールに添付され、多数の社員に送付されて説明番組への投稿依頼が行われたことを、コンプライアンスの観点からどう見るべきか、という点である。

 この点に関しては、今後、メモの作成経緯、メモが社内でのように取り扱われ、どのような経緯、意図で説明番組への投稿依頼メールにファイル添付されたのか、第三者委員会による詳細な調査を行った上で判断すべきことである。ただ、一つだけ、現時点においても明確に言えることは、知事からの投稿要請があったとの誤解がメールによる投稿依頼の一つの動機になったとしても、九電側にとって弁解には全くなり得ない、ということである。

 そもそも社外者、とりわけ原発立地県の知事という重要な人物と会社幹部の会談について不正確なメモが作成されるということ自体があってはならないことであり、その内容を十分に確認しないまま社内に送付され、それを受け取った側も、そのメモがどのような経緯で作成されたものかを確認もしないまま、メールに添付して多くの社員に送付するということも、凡そあり得ないことである。文書の作成、管理、使用について、企業人としての基本的姿勢に重大な問題があると言わざるを得ない。

 次に、一連の経緯に対する九電のトップ眞部社長の対応をどう評価するかである。

 まず、第一の文書の作成、管理、使用に関する組織上の問題も、最終的には社長の責任である。その点について経営者として重大な責任があることは言うまでもない。この点はその責任の程度は今後、今後、事実関係を詳細を明らかにし原因分析した上で判断することになる。

 もう一つの問題は、今回の問題表面化後の6月21日の副社長ら3名と知事との会談の事実をどう取り扱うべきだったかである。7月30日の第三者委員会委員長会見においても、その事実を隠蔽していたこと、経産省にもその事実を秘匿して報告したことに関する批判が相次いでいた。

 この点は、経営者にとっての危機対応として極めて困難な問題だったといえよう。眞部社長が、その事実の公表を差し控えていた主な理由として以下のような点を上げた。説明されたのは、会談メモの記載内容と関係者の供述内容の間に食い違いがあり知事の発言内容について事実を正確に把握できていなかったこと、知事の発言内容は知事の政治生命にも重大な影響を及ぼす可能性があり、不正確な情報を公表することは佐賀県政及び県民に取り返しがつかない重大な影響を与えかねないこと、九電の側から会談の事実と知事の発言内容を指摘するのは、説明番組への投稿問題について知事に責任転嫁しようとしているように受け止められかねないこと、などであった。いずれも、それなりに合理性のある理由といえよう。しかも、もしこれらの事実を九電側が公表した場合、知事発言についてのメモの記載と

 知事や関係者の供述との不一致についての質問に九電側で納得できる説明を行うことは困難であり、知事側の説明との矛盾を露呈し、九電と佐賀県知事との癒着の疑惑が深まるなど、事態は大混乱に陥っていたと思われる。

 そう考えると、この問題は、当事者たる企業側の対応能力、説明能力を超えるものだったと言わざるを得ない。最終的な評価は、第三者委員会の調査を踏まえて行うこととなるが、真部社長が、会社としての公表は差し控え、事実をすべて公表する覚悟の下に、外部の専門家に調査及び対応を委ねたことは、少なくとも現時点においては適切な判断だったと評価することができよう。

 最後に、現時点で把握している事実を前提に、古川知事の今回の行動をコンプライアンスの観点からどう評価すべきかについても述べておきたい。

 今回の問題の本質は、東日本大震災・福島原発事故によって、電力会社をめぐる環境が激変したのに、九州電力がその変化に適応できていなかったところにある。福島原発事故が起きるまでは、「絶対安全」の神話化を前提に原発の建設と稼働を行って電力会社にとって、「絶対安全」の神話を国民がそのまま信じ続けくれるようにすることが重要な業務であったが、福島原発事故で国民の原発に対する認識は大きく変わり、原発の安全性を最大限に高めるべき立場にある原発事業者である電力会社が、万が一事故が発生した場合において安全確保のために適切な対応を行い得るのか、信頼できる情報開示、説明ができるのかが最大の社会的関心事となった。安全確保に向けての取組みが、周辺地域の住民及び国民全体から評価される立場、安全への取組みについて公正な審判を受けるべき立場になったのに、そのような環境の激変に適応できず、九州電力の関係者が、玄海原発において、「福島原発事故後初の原発再稼働」の是非という、今後、全国の原発の稼働に重大な影響を与える判断が求められる状況において、原発事故前とまったく同じ認識で、同様の方針で公正な審判に当事者自らが介入するという行動を行ってしまったのが今回の問題である。

 それと全く同じことが古川知事にも言えるであろう。福島原発事故前は、原発の建設・稼働は一貫した国策であり、原発事業者の電力会社と緊密な協力関係の下に原発推進政策を実施していくこととそのための原発の安全性の啓蒙と県民の信頼確保は、原発立地県の知事にとって当然の職務であった。

 しかし、福島原発事故により原発をめぐる環境の激変の激変によって、原発立地県の知事の立場も行うべきことも大きく変わった。一度事故を起こせば制御不能になる原発の恐ろしさを目の当たりにした県民、国民には、原発に対する不安と恐怖が高まった。電力会社の安全への取組みがいかに信頼できるものなのか、情報開示、説明がいかに十分に行われているのか、県民、国民が評価した上で原発稼働の是非を判断することになる。その判断を最終的に取りまとめるのが県知事であり、まさに、公正な判断者、審判者としての立場を貫くことが求められるのである。かかる意味では、「経済界からも原発容認意見を出してほしい」という期待を述べただけで、直接的に九電社員からの番組へのネット投稿を求めるものではなかったとしても、県知事が当事者である九州電力に対して、原発稼働の是非についての県民の判断、審判の場への介入を求めること自体が、不適切であったと言わざるを得ない。

 古川知事にとって、6月21日の九電副社長以下との会談時の発言は、玄海原発再稼働をめぐる対応の中ではごく一部に過ぎないであろう。まず、これまで「環境の激変への適応」という視点を欠いたまま行ってきた原発問題への佐賀県知事としての対応の中身をすべて明らかにし、反省すべき点、改めるべき点を明確にすべきである。その上で、今回の問題で信頼を失墜した原発再稼働の是非についての従来の判断枠組みとは異なる、中立性、客観性を高めた新たな枠組みを構築し、原発事故後における原発立地県としての対応のルールを創造していくべきであろう。

 古川知事は、これまで、プルサーマル問題も含め、原発立地県の知事の中で推進派の「斬り込み隊長」的な役割を果たしてきたと言われている。今後、福島原発事故によって激変した環境の下、原発立地県の知事の転換が求められる中で、先進的な役割を果たす姿勢が打ち出せるかどうか、それが、今回の問題についての知事の責任にも大きな影響を与えるものとなるであろう。

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