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メールマガジン

2011/10/03

【九州電力第三者委員会を終えて】

 先週金曜日、9月30日、九州電力第三者委員会の最終報告書を同社に提出・公表し、委員長として記者会見を行った。

※報告書→http://www.kyuden.co.jp/library/pdf/notice/report_110930.pdf
※ビデオニュース→http://www.videonews.com/press-club/0804/002087.php

 今回の報告書の内容、そして、その前提となった弁護士チームによる調査結果には絶対の自信がある。弁護士12名のチームを率いて「やらせメール」問題についての調査を総括してくれたのは赤松幸夫弁護士。これまで、多くの企業・官庁不祥事の案件で、私が第三者委員会委員長、赤松弁護士が調査総括という「不動のコンビ」を組んできた元特捜検事の調査のプロ中のプロ。特に、2年前、多くの官庁で表面化した「ヤミ専従問題」では、社保庁、国交省、農水省と、すべての案件の調査を総括し、官庁不祥事調査でも赤松弁護士の右に出る人はいない。

 西村あさひ法律事務所の弁護士5名のチームを率いて、プルサーマル等の公開討論会をめぐる問題の調査を総括してくれたのが梅林啓弁護士。特捜部では、約15年前、下水道事業団の独禁法違反事件で一緒に捜査をした時から、捜査能力は、後輩検事の中でピカイチだった。今では、西村あさひ事務所の危機管理チームのリーダーとして、数々の企業不祥事案件の調査を手掛けている。私が総務省顧問として手掛ける補助金予算適正化プロジェクトでも、総務省参与として調査総括の仕事をしてくれている梅林弁護士に、私は、赤松弁護士と同様、全幅の信頼を置いている。

 企業不祥事の第三者委員会の調査というのは、通常は、基本的な事実関係は確定していて、その原因究明、再発防止策の策定のために必要な、より深く掘り下げた調査をする、というのが一般的だ。ところが、今回の九州電力の問題は、第三者委員会発足時には、まだ明らかになっていない多くの重要事実が調査の対象だった。その調査の中で、未解明の新たな事実を明らかにしていかなければならない。そういう意味では、極めて特殊な第三者委員会調査だった。

 しかも、弁護士チームの調査は、検察の捜査などとは違って、強制権限は何もない。会社の、そして調査対象者の任意の協力を求めるだけだ。

 そういう調査で、今回、委員会発足時には明らかになっていなかった多くの事実を解明することができたのは、プロ中のプロの二人の弁護士を調査総括とすることができたのが大きい。

 第三者委員会のメンバーもベストだった。阿部道明委員は、私と同じようにコンプライアンスを専門とする九州大学教授、企業での勤務の経験も長く、企業実務にも明るい。委員会での議論、検討や調査の進め方に関して、多くの場面で貴重な意見を出して頂いた。岡本浩一委員は、社会心理学者で組織風土論が専門。九州電力の社員全体のモラル、モチベーションは高いという全社員対象の組織風土調査の結果は、問題は組織風土でも、社員の質ではなく、経営トップの問題だという我々の見方を裏付けた。古谷由紀子委員は、企業経営や現場の実情にも理解がある消費者問題専門家として貴重な存在、決して「企業悪玉論」「消費者利益」を一方的に振り回す人ではない。その古谷委員が、多くの人達から集めてくれた「やらせメール」問題への消費者側意見は、第三者委員会の議論を進めていく上でも大変参考になった。

 むしろ、不安要因は委員長の私の側にあった。

 佐賀県の古川康知事とは10年近く前、私が長崎地検次席検事時代に古川氏が長崎県の総務部長だった頃からの旧知の間柄、コンプライアンス研究センター設立記念シンポジウムにもパネリストと参加してくれた。官製談合による知事の逮捕が相次いだ2006年秋に設置された公共調達PTにアドバイザーとして招かれたのも古川知事の推薦によるものだった。改革派として最も期待する知事。その古川知事の名前が、「やらせメール」問題に関して出てきた時、私の胸中は複雑だった。できるだけ古川知事に政治的ダメージを与えたくない。しかし、そういう私情に流され、公益事業者である九州電力の不祥事の真相解明という公益的使命を担う第三者委員会委員長としての職務を歪めてはならない。

 そして、もう一つは、九州電力社員を父に持つ古川知事と同様に、私の父も、長年中国電力に勤務、同社グループに骨を埋めた人間、私も「電力マンの息子」だということだった。その縁もあって中国電力のアドバイザリーボードの委員長も務め、全国10電力会社のうち8社でコンプライアンス講演を行った。2006年に検事を退職した際に、中途退職のささやかな退職金で買った株式も、東京電力と関西電力、父から受け継いだ中国電力株と合わせると、私の持つ株式の大半は電力株だ。そういう「電力会社寄りの人間」である私にとって、今回の件でも九州電力の経営陣と対立し、電力業界から反発を受けるのを、できるだけ避けたかったことは言うまでもない。

 そういう複雑な立場の中で、私は、自分が第三者委員会委員長としての職務に取り組んでいく姿勢について、常に自問自答を繰り返してきた。

 そういう困難な状況ではあったが、ベストメンバーに恵まれ、支えられたことで、何とか、委員長としての職責を果たすことができたように思う。

 こうしたメンバーによって出来上がり、公表した第三者委員会最終報告書の中でポイントとなる点について、解説を加えておこう。

 第1に、6月21日の知事公舎での古川知事と九州電力副社長ら3名との面談の際の古川知事の発言内容についてであるが、古川知事側や九州電力側が「反論」をするなどしたことで注目を集めたが、この問題については今回の最終報告書によって完全に解決済みとなったと言って良いであろう。

 その決め手となるのは、第三者委員会報告書でも述べているように、古川知事の発言を基本的に正確に記載したと赤松弁護士の報告書が認定した佐賀支店長作成のメモによれば、同知事は、6月26日の説明番組に関する発言の中で、最初に、「発電再開に向けた動きを一つ一つ丁寧にやっていくことが肝要である」と述べている。

 この言葉は、古川知事の、玄海原発再稼働問題についての基本的な姿勢を端的に表現するものである。報告書では、玄海原発3号機へのプルサーマル導入と原発再稼働に共通するものとして、知事側は、住民参加イベントを通じて地域住民の安全性への理解の程度などの「民意」を把握する意向を示し、同イベントでの「民意」が原発推進賛成が多数であるような外形を作るために九州電力が動くという構図を指摘しているが、その構図どおりに、古川知事が、原発再稼働に向けて、九州電力と歩調を合わせて「一つ一つ丁寧にやっていく」という立場だということを自らの認めているのがこの発言なのである。

 この古川知事発言が、支店長メモの記載の通りであることは、赤松報告書によって、同メモの記載の前提的な正確性が認められているところからも明らかだが、古川知事は、赤松弁護士からの質問に対して提出した回答書の別表「九州電力社内メモの項目に対する私の趣旨・真に」中で、この「発電再開に向けての動きを~」に続いて『「とりあえず、国主催の県民向け説明会を26日(午前中)に開催することとなった。その後、月末から来月初めにかけて「経済産業大臣に来県」いただく予定である」と記載されている部分全体について、「経済産業大臣の来県の予定を月末から来月初めと書いてあるところについては、月末までに専門家の意見を大体聞き終わるということでしたので、その時点においては、そのあたりからその後になるのではないかというふうな見通しについて述べたものです」と述べているだけである。

 要するに、古川知事は、この項目全体の中では、経済産業大臣の来県の予定のところにしか反論、説明をしておらず、「発言再開に向けた動きを一つ一つ丁寧に」という部分については、何一つ反論、説明をせず、その発言を事実上認めているのである。

 古川知事の発言については、「発言再開容認の立場からも、ネットを通じて意見や質問を出して欲しい」という支店長メモの記載に関して、その発言の真意がどのようなものなのか、九州電力側に何かを要請するものなのかどうかが、いろいろ取り沙汰されてきた。

 しかし、むしろ、重要なのは、原発再稼働問題への基本的な姿勢であり、それについては古川知事も、自らの発言を実質的に認めでいるに等しいのである。

 このように、6月21日の知事公舎での面談時の古川知事発言の問題については、第三者委員会最終報告書によって、解決済なのである。

 第2に、プルサーマル導入に関する佐賀県主催の討論会における九州電力側の「仕込み質問」について、佐賀県側が報告を受け、容認していたことについてである。

 梅林報告書は、具体的な根拠を上げて、この点を明確に認定しているが、佐賀県側は、この点を否定しているようであり、当時の公開討論会の担当者のうち、誰が、どのように

 報告を受け、容認していたかを問題にしてくるかもしれない。しかし、そのようなことを詮索することは無意味であるだけではなく、かえって、この

 問題をめぐる混乱を深める結果になることを認識する必要がある。第三者委員会報告書では、プルサーマル導入をめぐる佐賀県側と九州電力側との関係を

 大きな構図としてとらえ、佐賀県主催の公開討論会における「仕込み質問」も、主催者である佐賀県側が容認しているものでなければ行い得ないものであることを述べている。「仕込み質問者」を会場内のどこに配置するのか、どのようにして指名するのか、などについて事前に主催者側と打ち合わせておかなければ、せっかく仕込んだ質問も不発に終わってしまうことは明らかである。それに、もし、九州電力側が主催者の佐賀県側に無断で、「仕込み質問」を行っていたとしたら、それは、公開討論会の開催という「業務」を、「仕込み質問」という「偽計」によって妨害した偽計業務妨害罪に該当する行為である。そのようなことを公益事業者である九州電力が組織的に行うことが考えられるであろうか。

 要するに、この公開討論会における「仕込み質問」は、九州電力と佐賀県が一体となって組織的に行ったものであることは明らかであり、それは、担当者個人の言動を確認したり、個人に責任を負わせたりするような問題ではないのである。

 それでも、佐賀県側が、「仕込み質問」を容認した事実はない、九州電力が無断で行った行為だというのであれば、九州電力側の著しい背信行為に対して、ただちに厳重に抗議し、今後、そのような企業とは絶縁するというような断固たる措置を取るのが当然であろう。

 第3に、この玄海原発3号機へのプルサーマル導入をめぐる経過に関しては、弁護士チームの報告書提出を受けたのちに、第三者委員会独自に、特に重点を置いて調査した点がある。それは、露骨な「仕込み質問」が行われた佐賀県主催の公開討論会が、プルサーマル導入についての佐賀県の事前了解の判断に関して、どの程度の重要性を持つものだったのか、という点である。

 プルサーマル関係の調査結果を含む梅林報告書が完成し、九州電力側の露骨な仕込み質問が明らかになった後、第三者委員会は、真部社長を含む九州電力関係者から、直接ヒアリングを行った。その中で、佐賀県主催の公開討論会における「仕込み質問」についてどのように思うかを質問したところ、同社長は、「プルサーマルは、この説明会だけで決まったわけではない。その一事ではなく、全体的な流れの中で決められたのだと思う。」と述べた。同じ質問に対して、当時、九州電力の社長であった松尾現会長も、同趣旨の回答をしている。つまり、九州電力の経営トップとしては、このプルサーマル問題の公開討論会での「仕込み質問」について、その事実は、明確な資料もあり、原子力事業本部側も認めているので否定しようがないことから、その仕込み質問が、プルサーマル導入の判断に与えた影響が軽微だった、という弁解をするしかなかった。それによって、仕込み質問の悪質性を否定するとともに、それによってプルサーマル導入の手続きに重大な瑕疵があると指摘されるのを免れようと思ったものと思われる。

 そこで、委員長の私の方で、佐賀県ホームページ等を徹底的に調査し、古川知事の公式発言や、同ホームページに掲載されている「ラジオ知事室」での発言等から、当時のプルサーマル導入への事前了解が行われるまでの経過の中で、この県主催の討論会が、決定的な役割を果たしたこと、特に、その前の国主催のシンポジウムではプルサーマル導入慎重派ばかりからの質問であったのが、県主催の討論会では、会場からも賛成の立場からの質問意見が出て、それが説得力があったとして、それによって、「安全性への理解が深まった」と古川知事が評価し、それ以降、事前了解に向けての動きが急に加速していったことを明らかにした。実際には、その「会場からの賛成の立場からの意見・質問」のほとんどは九州電力社員による仕込み質問だったのであり、まさに「作られた会場世論」がプルサーマル導入に決定的な影響を与えたことが明らかになったのである。

 この第3の点についての調査と、それについての第三者委員会報告書の執筆は、9月30日という最終報告書の期限との関係で、まさに時間との戦いであった。

 何とか、ギリギリ間に合わせることができ、それらの調査結果に基づき、九州電力に対して、過去の原発問題への対応、原発立地自治体との関係についての「不透明性」を排除するための抜本的な措置を提言することができた。

 こうして九州電力第三者委員会の活動は終わった。しかし、問題は今後である。我々の調査結果、提言が、今後、九州電力にどのように受け入れられるか。まず、「透明性の確保」に向けて経営トップの考え方、姿勢を抜本的に改めることが不可欠である。そして、切に望みたいのは、報告書でも述べたように、今回の問題を賛成投稿要請等の実行行為者個人の問題ととらえないことである。

 賛成投稿要請のメール送信の実行行為の原子力事業本部の業務運営グループ長も、投稿要請に関わっただけでなく、「不正確な面談メモ」作成の責任まで問題にされた佐賀支店長も、我々がヒアリング等で受けた印象は極めて有能で誠実な人材である。こういう人材を今後最大限に活用していくことこそが、岡本委員の組織風土調査の結果にも表れている有能で意識の高い九州電力社員の人材活用を進めていくための第一歩である。

 我々が直接提言する対象ではないが、佐賀県に対しても是非望みたいのは、プルサーマルをめぐる県主催の討論会に関して、末端の担当者の責任等を追及するなどという愚かな行為は絶対に行わないことである。今、必要なことは、今回の第三者委員会報告書で明らかにした事実を踏まえて、今後、原発立地自治体との関係も含めて、原発をめぐる重要な決定を、どのように地域住民、市民、国民の意思を反映する形で行っていくのか、新たな枠組みを検討していくこと、そのために佐賀県が組織一丸となって取り組むことである。私が個人的に知る古川知事は、そのリーダーシップを果たすことが必ずできる人だと思う。

 今回の第三者委員会の活動では、「チームの力」を実感することができた。委員会の委員メンバー、調査チームの弁護士メンバー、そして、最後の報告書執筆の突貫工事を支えてくれた私の事務所のメンバーなど、本当にベストメンバーに恵まれた。約10年前の「長崎の奇跡」(「検察の正義」ちくま新書、最終章に所収)、長崎地検の全庁一丸となった捜査で、政治資金パーティーをめぐる裏金工作も含めた自民党の地方組織の集金構造を解明し、小泉政権全盛期の自民党に大きな衝撃を与えた時以来、久々の達成感を感じている。

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